小学生の遠足の時に弁当が惨めだったことがある。
開けてみると白ご飯に卵焼きだった。
みんなワイワイと彩りのある巻き寿司や果物の入った弁当を広げて食べている。
その時、ボクは母を恨んだ。
弁当箱を覆い隠すように持つと、ひとり一段高い岩場に駆け上がり口にがむしゃらに卵焼きを詰め込んだ。
今から思うと母は相当無理をしてつくってくれたのではないだろうか。
おそらく母は日雇いの仕事疲れで寝込んでいたのだと思う。
ボクの家は田舎でも貧しい方だったので、いつも遠足の弁当は湯鬱だった。
いつか上級生から「おまえの弁当、土方の弁当やん」と冷やかされていたく傷ついたこともある。
唯一赤いウインナーがボクの気持ちを慰めてくれたのだが、この日は買い出しにも行けなかったとみて大きな卵焼きだけが詰められていた。
それでも口いっぱいに詰め込んだ卵焼きがじわっと口の中でほぐれると、ほのかな甘みが広がってボクはやんわり落ち着いた。
やはり、母の卵焼きはいつもほんのり甘くて柔らかい。
ボクは杉林の稜線に囲まれた狭い空を見上げると、一人でモグモグといつまでもその味を楽しんだのを覚えている。
自分がまだ物心つく前の単純な子供の頃の話だ。