小学校五年生の卒業式の練習で苦い思い出がある。

 桃の花、匂う三月、おなごりはつきません。

 ボクの小学校では卒業式で六年生を送る言葉を、下級生が台詞をつないでやっていた。

 ボクの台詞は「おなごりはつきません」のところだった。

 練習の時ちゃんと聞いていなくて、どんなんやったっけーと「おらげりはつきません」とか適当に言ったら、ブー教頭から「こらぁオナゴリ、ちゃんと言わんかぁ」とドス声で叱られた。

 ボクはオナゴリと呼ばれ何度も練習させられた。

「声が小さーい」と言われたので、快活に「おなごりはつきませーん」と大声でやったら「そんなに元気に言う言葉じゃなーい」とブー教頭がまた怒鳴る。

 ボクはブー教頭に恐る恐る聞いてみた。

「あのぉオナゴリってどんな意味ですか?」

 ブー教頭は目を剥いて「ええ、意味ぃ、ん~意味はなぁ・・・・・・おい、誰か教えたったれ」と周りにいた先生に振った。

 先生の1人が「えーと、別れは悲しいけど悲しそうに別れないことだよ」とか言って自分で首をかしげていた。子供のボクにはやっぱりよく分からなかったが、コワイ上級生がいなくなって嬉しいだけなのになんだと思った。

 翌年ボクたちが送られる時、オナゴリに当たった下級生がブー教頭に同じようにいじりたおされていた。あんなの小学生の使う言葉じゃない。

 そんなあの頃におなごりはつきませーん、と言いたい。